東京紳士物／柴田錬三郎のジュニア探偵冒険小説『妖魔の黄金塔』（ポプラ社）

ポプラ社。1954年刊、初版。カバー欠の裸本（カバーのカラーコピー付き）。非貸本。両表紙の背寄りの部分の上部に茶ジミ（画像3・4参照）、背表紙に強いヤケ、おもて表紙の背寄りの部分の上端に裂け（画像3参照）、裏表紙上部に鉛筆の書きこみの消しあと（画像4参照）。扉頁の端に裂け・ヨレ・欠損（扉絵自体にはかかっていません、扉絵下部に鉛筆の書きこみの消しあと／画像5参照）。経年のシミ・汚れがかなりあり（茶ジミの目立つ頁あり）。後ろの遊び紙の3分の2ほどが欠落。33〜34頁の端、35〜36頁の上端、41〜42頁の上の角および端に裂け・欠損（いずれも余白部分）。43〜44頁上部に裂け（若干、文字にかかっていますが、文字自体は失われていません）。69〜70頁の下部に穴あきがあり、69頁の数文字が欠落（コピーで補ってあります／画像6参照。70頁のほうは余白部分）。109〜110頁下部に裂け（余白部分）。挿絵：北田卓史 【内容紹介】 十四才の五郎少年がインドの港マドラスの裏道にある崩れかかった寺院の屋根裏で寝ていたところ、深夜の静けさをつき破って、鋭い銃声が立て続けに聞こえてくる。ほどなく屋根裏にひとの気配を感じて、「だれだっ？」と叫んで飛び起き、両足をふまえて身がまえると、闇のなかから「しずかに——」という落ち着いた声がして、懐中電燈を持った、覆面姿の長身の人物が姿を見せる。外で拳銃をぶっぱなしたのは自分ではないといい、危険だから避難してきたと語ったあと、目の前にいる少年が日本人らしいのを知ると、自身も日本人だと打ち明ける。この覆面姿の人物こそが東京紳士（柴田錬三郎の少年物のシリーズ・キャラクター）で、五郎の度胸のよさを買って、インドのためになることだからと、あることを頼んでくる。内ポケットから取り出した一通の書類を、次の日の朝の九時にマドラス博物館の前で、胸に白バラをつけた娘に渡してほしいというのだ。五郎はインド人と日本人とのあいだに生まれた子どもで、四才のときに、日本人の母親は高原のうすぎたない旅館の一室でなくなり、いまわの際に、五郎がインドの立派な王国のあとつぎに生まれた貴い身分だと言い遺していた。肌身離さず持っているようにと、「五郎の宝」と記されたおまもり袋を渡された五郎は、以来それを首から下げている。 東京紳士が正義の味方だと知り、五郎は翌朝、指示通り博物館に向かう。博物館の近くであたりに目を配っていると、やせこけた老僧が近づいてきて、五郎の顔を見つめてくる。「おまえは、王子の顔をしている」と告げられ、おまもり袋をくだんの老僧に見せようとした刹那、とある建物の路地から、胸に白バラをかざった娘が姿を現わす。かけよろうとした五郎より先に、ふたりのインド人がさっと進み寄り、左右からぴたりと寄り添って、娘を博物館のなかへと連れていく。どうやら横腹に拳銃をつきつけているらしく、五郎は三人のあとをひたひたと尾けていく。娘が怪漢たちにひき連れられていったのは、釈迦如来の巨像のかげで、そこで、マイソール王国の王女アミラ姫だろうと責め立てられる。娘は腕をねじあげられながらも否定するものの、東京紳士から受けとった秘密書類を出せと、なおも責められる。五郎は自分の横にある佛像が握っている鉄製のはすの花を抜きとり、決死の思いで悪漢たちに向かっていくが、敵のひとりに左肩を撃たれ、気を失っているあいだに、東京紳士から預かった書類を奪われ、アミラ姫も連れ去られてしまう。さきほどの老僧に手当てをしてもらったあと、敵が紅こうもり団なる秘密団体の一味であったことを知り、五郎はその連中がアミラ姫を連れて入っていったカシミール隊商宿へと向かう。 大門の先にある、右から三番目の巨大な建物が、紅こうもり団の隠れ家で、その一室で、頭に青頭巾を巻きつけた、すごい目つきの首領が、さきほどのふたりと対峙していた。青頭巾は五郎から奪った封書のなかに収められていた秘密書類を手にとるものの、ただの白紙で、あぶり出しでもなく、水に濡らしても文字はあらわれない（物語の3分の1ほどで、その紙に、巧妙な仕掛けが施されていたことが明らかになる）。このあと五郎も捕まってしまい、アミラ姫の入れられている長い廊下の奥の部屋に閉じこめられる。アミラ姫の話では、紅こうもり団はマイソール王国をくつがえすために、世界にもふたつとない千六十個のダイヤで飾られた黄金の王冠を手に入れようとしているのだという。それこそが王位のしるしで、紅こうもり団が宮殿に入りこんだことを知ったアミラ姫の父親は、殺される前に王冠を忠実な臣下のひとりに渡して、どこか遠い国の安全な場所へと運ばせていた。アミラ姫がマイソール守備隊が警護している宮殿を抜け出したのは、その王冠をさがすためで、東京紳士が宮殿を訪れ、はげましてくれたからだという。アミラ姫も五郎のとそっくり同じおまもり袋を持っており、囚われの身となったふたりには、どうやら目に見えないつながりがあるようだ。 国際色も豊かな、大スケールの探偵冒険譚で、アルセーヌ・ルパンの日本版ともいうべき東京紳士も、アミラ姫も、五郎も、幾度どなく、命の危機に見舞われる。女子供だろうが、ひとを殺すことをなんとも思わない青頭巾や、紅こうもり団に与する白人のキーロフのキャラも出色で、ジュニア物のなかでこれだけの極悪人が揃うのも珍しい。マイソール王国に乗りこんでの東京紳士や五郎らの冒険活劇は、さながら『ONE PIECE』の〈アラバスタ編〉のようで、東京紳士はかの地で最強の敵と戦う。ちなみに、表題にある〈妖魔の黄金塔〉は、紅こうもり団の本拠である断崖絶壁の上に立った古城で、そこでも命がけの冒険がくり広げられる。 画像7：東京紳士の隠れ家を白状しろと、アミラ姫と五郎が巨大な鎌の下に結わえつけられ、その鎌が時計の振子のようにゆれながら、刻一刻とさがってくる、恐怖の場面。ちなみに、そのようすを左に立ってながめているのがキーロフ、右に立っているのが青頭巾。 画像8：地下室に囚われた東京紳士の身体の周りに、赤く熱した鉄の壁が迫ってくる、絶体絶命の場面。東京紳士はポケットから取り出した丈夫な綱で、必死の脱出を試みるが…… ＊受領後はすみやかに「受け取り連絡」をお願いします...

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